QuickIRCの昔話
今日は昔話をしよう。
2002年3月にchocoa.netが終了して、「普通の人が多い雑談チャンネル」に飢えていた俺は2ch@IRCにやってきた。
そこにはIRCとWebがあり、Webにはチャンネルの一覧と、一応そこからゼロインストールで使えるJavaアプレットが設置されていた。普通の人はいきなりIRCクライアントをインストールなんてしないから、そのアプレットでやってくることになる。
俺は大きなチャンネルのうちいくつかに参加してチャンネルの空気を掴もうとしていた。WebからJavaアプレットでやってきた2ch掲示板のユーザ(IRC初心者)と、IRCクライアントで接続しているチャンネル常連の仲はあまりよくなかった。
チャンネル常連が頻繁に指摘するのは、Javaアプレットのユーザが書いたテキストの一部が文字化けしていることだった。当時そこに設置されていたJavaアプレットは海外製のフリーウェアで、Javaの日本語の事情もISO-2022-JPに関する混乱も考慮されていなかった。断言するがこれはツールの問題で、ユーザの問題ではなかった。常連の一部はそれを分かった上で初心者を揶揄していた。IRCクライアントのインストールも出来ない奴は来るな、というわけだ。
俺はまた「ついカッとなって」、もっとマシなJavaアプレットを書いてサーバの管理者にメールした。
その時書いたJavaアプレットは極端に文字化けを嫌っていた。
Javaには、厳密に言うとシステムの文字セットと表示の文字セットがある。一見同じシフトJISの様に見えてもそれはShift_JISとは限らず、cp932かもしれないしMacJapaneseかもしれない。きわめつけは当時のNetscape4で、システムの文字セットと表示の文字セットが異なるというていたらくだった。それらの環境の差異を実行時に検出して、さらにサーバとの通信に使うJIS「もどき」の文字コードにも対処するようにした。さらに機種依存文字が化けないように、危険な文字をほぼ等価な安全な文字列に変更した。ローマ数字の鄴はアルファベットのiが3つ並んだものに変えたし、二種類あるΣの片方はもう片方のJISに定義されている方に変えた。
名無しのニックネームが読めないなどの問題が一時的に発生したが、その後すぐに改良した。
以前の問題は多少改善したように見えた。初心者の定着率はやや高まり、サーバのユーザ数は増えていった。人の流れがあると場は澱みにくくなる。
当初の目的「普通の人が多い雑談チャンネル」を得た俺は満足していた。
しばらくすると、別の問題が起きはじめた。大規模なチャンネルの村社会化が進み、そこにいられなくなった人達が別のチャンネルを作るようになった。しかし初心者がまずやってくるチャンネルは、常に大規模なチャンネルに限られていた。
大規模チャンネルの常連と相性が悪いユーザは、それだけで消えてしまうことも多かった。多様性が制限されているのが当時の俺はイヤだったんだと思う。
初心者の流れが偏っている理由は、Webのトップページにあるチャンネル一覧が常にユーザ数順にソートされていることだった。これでは小さいチャンネルには人は流れにくいだろう。断言するがこれはツールの問題で、ユーザの問題ではなかった。
チャンネルの活発さを統計的に調べる必要があったので、今度はIRCサーバを改造してサーバの管理者にメールした。改造が実際にサーバに反映されるまで、やたら待った記憶がある。
2ch@IRCのWebトップページには「flow」が表示されるようになった。その時間帯の会話量がわかるので、ユーザはその時活発なチャンネルを優先的に選べるようになった。もちろん人数順ソート、チャンネル名順ソートも選べるようにした。
その時の大規模チャンネルからの反響は、必ずしも良くはなかった。
「初心者はロビーで洗礼と教育を受けるべきだ」
「小さいチャンネルは荒し対策が不十分だから、リストの上位に表示するべきではない」
「シークレットチャンネルにはしたくないが、リストの上位には表示されたくない」
後の2つの意見は間違っているとは言えなかったので、トピック文字列の頭に特定のフラグを書けばflowをsageるように改良した。
結果的に言えば、flowは正解だった。人数だけは多いがほとんど会話の無いチャネルには人が流れなくなり、かわりに小さくても活気のあるチャンネルに人が流れるようになった。大規模チャンネルでもオープンなところには十分なflowがあり、リストの上位を保持していた。
同時期にusernameの10桁トリップ改造をした記憶があるが、これも賛否両論あった。結果的には自動opの安全性を向上させた利点の方が大きかったような気がする。
その後、俺はオフ会で酔って醜態を晒したり、ネットゲームに嵌まったりして雑談チャンネルからは数年間離れていた。
この間に俺は自分用のIRCクライアントを書いたりしたが、それに時間を使っていた関係でますます雑談チャンネルから離れていった。
その後、ブラウザの環境は地味に変わっていった。Java VMを搭載しなくなった、ポップアップブロッカー、セキュリティモデルの強化、等の影響で、QuickIRCはマトモに動かないシロモノになっていた。1鯖の接続不良も影響していたと思う。
俺はまた「ついカッとなって」、もっとマシなモノを書いてサーバの管理者にメールした。
ちゃんと動く状態にしたし、UIも不満点は一通り改善できた。
何人かの他のユーザから「すげー」と言われたが、たぶん彼らがすごいと思ってる部分と俺ががんばった部分は全然別のところにあると思う。
「普通の人が多い雑談チャンネル」がまた育っていくといいと願っている。
しかし今の自分の位置はそのチャンネル中では普通の人であるとはいえなくなってしまってる。雑談に参加するには適しているとはいえないんじゃないだろうか。
妙なジレンマを抱えてしまった。
モトが普通の人ならまだいいのだがキモオタだし、増長したキモオタが舞い上がって墜落した…例は既に自分で経験しているし、慎重にならざるを得ないような気がする。